緊縛的布小物「巡」

【下巻】
貴方は、目に見える拘束を不粋なものとして扱った。
人の目に映らなくても、御自分と私だけが分かって居ればいいと仰り、事実そうであった。
他人の承認なんて糞食らえだった。
だからこの首輪を密かに誂えてくださって居たことが、私には酷く意外だった。
貴方への隷属を許可している事
貴方の身体が無くなった今、そしてこれからも私は貴方のものであるという事
それを目ではっきりと見せるための首輪、だったのかも知れない。
貴方の両手で私の首を絞められなくなっても。
貴方だけは、いつか訪れる不慮の別離を覚悟していたのかも知れない。
こんな物を遺して
淋しい私に蝶を寄越すような悪戯をして
貴方様は、馬鹿なお人です。
貴方がつけた傷
貴方が掴んだ痛み
貴方が重ねた痕と
貴方の切ない滴りを
ただ辿り思い返して
私はひとりで生きてゆきます。
貴方がくださった見えないもの
それしか私には無いのです。
ずっと、私はそれしか欲しくなかった
約束なんて欲しくなかった。
貴方の面影を
匂いを
くぐもった声を
繋がった時の貴方の
黒目がちな眼差しを
肌の温もりを、
躊躇いなく与える苦しみや痛みを
私は何時も感じています。
貴方が最後に私に下さったのは
安息の日々。
私が貴方様と同じ歳になったら
縄をひいて呼んでくださいますか？
河を渡る小舟が見失わないように、
貴方が手繰り寄せてくださいますか？
天国でも地獄でも
貴方の導きに従いましょう。
私が老いてちいさくなってしまっても、
きっと解ってください。
その時が来たらまた
貴方様は私を胸に押し抱いて、
苦しく甘い接吻をくださり
そしてお慰みものにしてくださいますか。
それまでどうかゆっくりと
私の中でお眠り下さい
おやすみなさい、貴方。
2016.7.25 都内にて撮影
画像は次の記事で。
没ショットをトリミングしたものです。